少し前だが、福岡で行われた学会 (STROKE 2018) で、親しい年上の脳外科医と話しているときに、
「十数年前と比べたら、バイパスのレベルが上がったと思う」
という話があった。
もちろん、個々の病院間、あるいは血管障害に携わる脳外科医ひとりひとりで技術に差はあるだろうが、発表されるバイパス関連の演題数や、供覧されるビデオを見ると、そうかもしれない。
理由はいくつか考えられるが、"北の人々"を中心にバイパス至上主義的な発表がされてきたことで、血行再建を併用することで難易度の高い疾患も安全性が高めることができる(のでは)という認識が広まってきたことは影響しているだろう。
もう一つは、井上先生(NTT東日本関東病院) の1万針論文をはじめとして、バイパス手術の練習方法がいろいろと発表され、虎の穴的 秘伝の練習方法 ( ? )が世に広く知られるようになったことが大きいのではないだろうか。
つまり、実戦(チャンス)がいつあるかは分からないにしても、そこに至る練習はできるという情報が広く知られるようになった。
実際には、練習と本番(本当の手術)ではいろいろ環境が違うのだが、基本的な手の動かし方などは同じであり、実践に近い練習ができる。
卓上顕微鏡という便利な玩具がいくつかのメーカーから出ており、安くはないが、お金を使う時間がない忙しいレジデントなら何とかなる価格で手に入る。
卓上型なので、例えば病棟とか医局といった、長時間過ごす場所でも、その気になればこまめに練習できる。
この「こまめに」というところが重要で、世の中には「ネズミで100件練習したら、患者さんの血管を繋がせてもらえる」という施設もあるようだが、動物施設に行って行わなければならないだけでハードルが高い。
(かつ最近は実験動物の取り扱いは大変注意が必要で、倫理的にどういう扱いになっているのか非常に疑問だ。)
話は戻るが、"脳外科と言えば顕微鏡手術"という部分は確かにあるので、将来に繋がっている感がある。
練習が適度に難しく、そして進歩が確認できる程度には単純なため、たとえばタイムトライアルのような遊び方ができる。(今風に言うとゲーミフィケーション。)
このような、やれば上手くなることが分かっている背景があって、多くのレジデントが研修を始めることを考えると、「バイパスなんてできてあたりまえ」というのが、脳外科(手術)業界のスタンダードになってきている可能性がある。
(これに関しては、自分で縫わせてもらうようになってから、ずっと言われてきたことであり、言ってきたことではあるが。)
若いドクター、特に執刀医としてやっていこうとする医師にとっては、そういう世代で(良い意味で)競争していかないといけないことを理解しておくべきだと思う。
特に同年代が複数いる環境では、何らかのチャンスをもらったときに確実に「モノにする」ことが必要。
チャンスは そんなに回ってこないと思った方が良い。
また、もう若者でなくなってきている自分の世代もうかうかはしていられない。
故永田和哉先生は「バイパスは(老眼で)糸が見えなくなってからが勝負」と仰っていたが、普通のバイパス(STA-MCA バイパス)ともかく、自分はリカバリー、或いは、どこにでも繋げるようにしておかないと、「さっさと引退して下さい」、と宣告されることになるかもしれない。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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