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  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

くも膜下出血という物語

くも膜下出血の治療は、全てではないが、ある程度パターンがあるとはいえ手術の難易度も高い。

ただ、この病気が脳外科医の興味を捉えるのは、別の理由があるかもしれないなということが、最近あった。


自分と同年代の女性の重症くも膜下出血。くも膜下腔の出血量が多く、意識の状態も悪いため、開頭手術を行った。手術自体は、頻度の多い部分の6mm程度のよくあるサイズであったため、つつがなく終了。

嬉しいことに意識もしっかり戻り、翌日には通常の受けこたえができるようになった。


しかし、くも膜下出血の場合には「手術一発、全治」というわけにはいかず、その後2週間にわたって脳血管攣縮という、正常な動脈が細くなって、脳に血液が行き渡らず、脳梗塞を起こす、という時期が続く。

この期間を乗り越えられないと、もとの生活には戻れないのだ


先ほどの患者さん、食事も普通に食べられていて、意識もはっきりされており

「これは結構、スムーズにいくんじゃないか?」

と思っていたが、1週間目にMRIを撮影すると、ばっちり脳血管攣縮が起こっていた。


血管撮影検査を行うと、MRIよりさらに細く見え、血管拡張薬を流してもらうものの”ちょこっと”広がるのみ。

「これで、あと1週間、乗り越えられるのか…?」


できることは限られているのだが、点滴量は足りているか、(実は汗などで)気づかれていない脱水傾向はないか、血液データは? 頭蓋内圧はコントロールできているか?

と、確認すべき内容を再度検討しなおし、ドレーンを再度入れさせてもらい、週末も病棟に顔を出し「もしかしたら、当直医が気づいていないような神経所見の悪化がないか」を確認。


とそうこうしている間に、MRIでようやく血管の写りが良くなってきて、「よかった、乗り切った!!」と安堵。



これは、くも膜下出血の患者さんでは「よくある」パターンではあるが、いろいろ手を尽くしても、脳梗塞ができて、「昨日まではしゃべれたのに…」いきなり脳梗塞が完成、右半身麻痺、言語障害(失語)が後遺症として残ってしまうこともある。


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全然違うと思われるかもしれないが、神話には

  1. 旅立ち

  2. 試練

  3. 帰還

という構造、基本パターンがあるとされる(Joseph Campbell)。


くも膜下出血の経過というのは、これに似ているんじゃないだろうか。


つまり、くも膜下出血を発症して、ついさっきまで元気だった人が「死ぬかもしれない」という状況になり、難手術を受ける「旅立ち」

脳血管攣縮という試練。

そして2週間のたたかいの後の、帰還。


この神話(物語)の基本パターンに、それぞれの患者さんのエピソードが加わるのだから、(不謹慎かもしれないが)興味深くないわけがない、と思うのだ。



(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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