top of page
  • 執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

未破裂脳動脈瘤の出血率は1%? (1)

更新日:2020年6月20日

前職で調べた未破裂脳動脈瘤の出血率に関する論文が、 アメリカ神経外科学会誌(Journal of Neurosurgery)に 掲載されました。


J Neurosurg. 2019 Mar 8:1-6. doi: 10.3171/2018.11.JNS181781. [Epub ahead of print]


未破裂脳動脈瘤
Journal of Neurosurgery

未破裂脳動脈瘤の出血率に関しては、多施設前向き研究や、単施設でも多くの患者さんを対象にした研究が既にあります。

「今更何を新しいことがあるのか?」というところですが、"従来行われてきた方法で解析を行うと、実は出血のリスクを小さく見積もってしまうのではないか"という内容です。


*******************

「未破裂脳動脈瘤がくも膜下出血を起こす危険性は、全部ひっくるめると1年あたり1%」ということになっています。


この1%という数字の根拠は何でしょう

これは未破裂脳動脈瘤を持っている人が2~6%(100人に2〜6人)いて、くも膜下出血が10万人あたり20~60人くらい起こる。

これを割り算して1%くらい、ということだった可能性があります。


この計算自体、少し立ち止まって考える必要のある数字です。


昨年人間ドックで見つかった未破裂脳動脈瘤の方で、ガイドライン上治療を検討するとされる5mm以上の方は0.3%(1,000に3人程度)と報告されています(Imaizumi 2018)


治療を検討するというのは、つまりくも膜下出血のリスクが無視できないということですが、そういう「危ない」動脈瘤は1,000人に3人しか見つからなかった、ということ。

そうすると、1%というのも、高く見積もりすぎなのでは?という疑問が出てきます。


*******************


2012年に発表されたUCAS Japanという日本脳神経外科学会が主体になって行った研究では6,000人近い未破裂脳動脈瘤の方が登録され、経過観察中に111件のくも膜下出血が起こりました(UCAS investigators, 2012)。

その結果から、未破裂脳動脈瘤の年間出血率は0.95%と算出され、「やっぱり1%くらいなんだな」というコンセンサスになっています。


しかし本当にそうでしょうか?


日本の病院で、未破裂脳動脈瘤の出血率を調べた、という研究は複数あり、2005年に森田先生がそのまとめを、地方別に分けて報告しています。

これによると、未破裂脳動脈瘤の出血率は平均2.7%!(最低1.6%-6.9%(!), 95% CI 2.2-3.3%) でした (Morita 2005)


年間1%も2.7%も、微々たる差で、それほど違わないと思われるかもしれませんが、脳動脈瘤はいったんできたら、一生つきあわなければならないものです。


なので、たとえば10年の間に出血する可能性を考えると、それぞれ、9.5% vs 24.9%になります。 (1-(1-(出血リスク))^10(年))=(1-(出血せずに生存している率)^10)

(2019/03/18訂正)


10年間で、10人に一人がくも膜下出血を起こします」と「4人に一人がくも膜下出血を起こします」では、大分話が変わってくるのではないでしょうか。



Reference:


1. Imaizumi Y, Mizutani T, Shimizu K, Sato Y, Taguchi J: Detection rates and sites of unruptured intracranial aneurysms according to sex and age: an analysis of MR angiography-based brain examinations of 4070 healthy Japanese adults. J Neurosurg 1:1-6, 2018


2. Morita A, Fujiwara S, Hashi K, Ohtsu H, Kirino T: Risk of rupture associated with intact cerebral aneurysms in the Japanese population: a systematic review of the literature from Japan. J Neurosurg. 102:601-606. doi: 610.3171/jns.2005.3102.3174.0601., 2005


3. Morita A, Kirino T, Hashi K, Aoki N, Fukuhara S, Hashimoto N, et al: The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort. N Engl J Med. 366:2474-2482. doi: 2410.1056/NEJMoa1113260., 2012


*ちなみに治療をお勧めする動脈瘤についてはこちら


最新記事

すべて表示

くも膜下出血を起こさない脳動脈瘤

一般的に大きさ5mmというのが(日本人では)治療を考える上で一つの基準になりますが、サイズが大きめでもくも膜下出血のリスクは高くないという部分もあります。 代表的なものに『海綿静脈洞部内頸動脈』にできる動脈瘤があります。 どうしてくも膜下出血を起こしにくいのか、というかほとんど起こさないのですが、もちろん理由があります。 くも膜下出血を起こす場所ではないからです。 脳は頭蓋骨の内側にあるわけですが

bottom of page