結局、全ての動脈瘤を治療せずに経過を見ることは倫理的にできないので、
「5mm以上の動脈瘤で、治療リスクがそれほど高くない動脈瘤の出血率は低く見積もられている”可能性がある”」ということです。
では、このような観察研究は意味がないのでしょうか?
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「未破裂脳動脈瘤からの出血」にとっての「手術(開頭手術/血管内手術)」のように、どちらか一方のイベントしか起こらない関係になっているイベントを競合リスクと呼びます。
競合リスクがある場合に、関心のあるイベント(今回の場合「未破裂脳動脈瘤からの出血」)がどれくらいの確率で起こるかを知る方法は、現時点ではないようです。
しかし、それぞれの競合リスクイベントが、どれくらい起こっているかを、視覚的に示すことで、(治療するかどうか)の判断の参考になるとされています。
われわれの調査では下のグラフのようになりました。
つまり、見つかって2年の間に1.2%の患者さんがくも膜下出血を起こしていましたが、同じ期間に、動脈瘤が見つかった38.4%の患者さんが治療を受けていました。
(*くも膜下出血以外の原因で亡くなった方も、未破裂脳動脈瘤からの出血は起こらないので、やはり競合リスクになります)
この「治療するかどうかの判断が適切か?」という問題があるものの、脳外科医が「出血リスクが無視できず、治療リスクがそれほど高くない動脈瘤」と考えた動脈瘤が、この程度(!)治療され、残りの方のなかでくも膜下出血が起こっていたということです。
UCAS Japanに関しても同様で、前述のように登録後3ヶ月の間に1/3の患者さんが治療を受けています。
森田師匠が、NEJMのreviewerとのやりとりの一部を話してくれましたが、その際、生存曲線の縦軸に関して、
『「脳外科医は(イベントがたくさん起こっているように見える)右上のようなグラフを使いたがるが、脳外科以外にとっては左下のグラフなんだよ」と指摘された』と自嘲気味に言っていました。
そうではなく、この空白に、競合リスクである「手術」があるということです。
我々のデータでも、出血は同じように0に近いラインです。
UCAS Japanでも"治療"のグラフが一緒に書かれてなければおかしいし、実際 1/3が3ヶ月以内、40%が1年以内に治療されています。
結局、UCAS Japan、あるいはISUIAやその他の研究に関しても同様ですが、「その時代に妥当と思われる治療適応のもとでの」出血率を見ているわけです。
*ちなみに治療をお勧めする動脈瘤についてはこちら
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